ナボーナ広場~古代の陸上競技場跡(イタリア)

 ナボーナ広場はごちゃごちゃと建て込んだローマの街の中心部にある長円形の広大な空間です。周囲にはレストランやカフェが並んでいて、広場に3つある噴水を眺めながら食事やお茶ができるローマ観光の定番です。ここはかつて古代ローマ時代には陸上競技場で、その形がそのまま残っているのです。



陸上競技場

 競技場は紀元86年に第11代となるローマ皇帝ドミティアヌスにより開設されました。かつてのトラックが今の広場の部分に当たります。今その部分の長さが約250m、幅が約50mで、今の陸上競技場と比べるとかなり細長い形をしています。トラックの形はチルコ・マッシモと同じく一方が直線のU字型でした。

 広場を取り囲む建物は、競技場の観客席があった場所に建てられています。観客席は外側が30mありました。 外観はコロッセオと同じような姿だったと思われます。コロッセオは48mなのでそれよりやや 小さめですが、現代のマンションでいうと10階建くらいの高さに当たる相当高い高層建築です。古代ローマの建築技術は非常に優れていたので、この基礎は年月が経ったいまでも建物の土台として十分に機能しています。

 ところでここは陸上競技場ですが、古代ローマで陸上競技というイメージはありませんよね?首都ローマのコロッセオは剣闘士の競技場ですし、チルコ・マッシモは映画ベンハーで描かれた戦車競技場です。剣闘士競技場である円形闘技場や戦車競技場は古代ローマの数多くの都市で今でも見ることができますが、陸上競技場は他では見たことがありません。陸上競技といえばオリンピック発祥の古代ギリシャのイメージです。古代ローマは古代ギリシャから多くのものを受け継いでいるので、これもギリシャ趣味の一つとして取り入れられたのかもしれませんが、他で見ないところを見ると、あまり流行らなかったのかもしれません。オリンピックがここで開催されたわけでもありません。ローマがギリシアを支配下に置いた後も、オリンピック、すなわちオリュンピアの祭典はオリュンピアで開催されていて、それは393年まで続いています。

 古代の競技場がほとんどそのままの形で広場になって残っているのは本当に面白いのですが、陸上競技のイメージがないのでかつての姿を想像しようとしてもうまくいかず、今ひとつ実感が湧が湧きません。私に想像力がないだけですが。

 古代ローマが衰えると陸上競技も開催されなくなり、使われなくなった競技場は貧しい人々の住居となったそうです。今は広場になっている中央のトラックの部分は集会所のような使われ方をしていたようです。

広場と3つの噴水

 今のような広場になったのは16世紀から17世紀にかけてです。

 広場には3つの噴水があり、南にあるのがムーア人の噴水です。中央がイルカと格闘するムーア人で、その周りを4対の海神トリトンが囲むという場面だそうです。しかし口になにか咥えて吐いている人が4人、口から水を吐き出しているおじさんが4人、としか見えません。グロテスクです。この美的感覚が私には理解できません。

南のムーア人の噴水
よく見るとグロテスク

 広場の中央にあるのは四大河の噴水です。ローマではいたるところに登場する商売上手なベルニーニ作です。ガンジス川、ナイル川、ラプラタ川、ドナウ川を擬人化したのだそうです。新大陸というと世界最大と言われるアマゾン川が思い浮かぶので、なぜラプラタ川なのか不思議でしたが、ラプラタ川は早くから拓かれていたので、これが新大陸の代表として採用されたようです。アマゾン川は当時は全く開拓されていない川でした。

中央の四大河の噴水はヴェルニーニ作
劇的で美しい噴水です。さすがヴェルニーニ。

 四大河の噴水の上にはオベリスクが建っています。このオベリスクは競技場を作ったドミティアヌスの命により、ナイル川の花崗岩を使ってローマで造られたものです。しかし最初に建てられたのはここではなく、少し東側にあったイシス神殿の前でした。エジプトの神イシスを祀るイシス神殿の前には、エジプトから運ばれたものも含めて数多くのオベリスクが建てられ、その後あちこちに移設されて今も残っています。このオベリスクは4世紀にアッピア街道沿いのマクセンティウス競技場に移され、更に17世紀にこの噴水を作るためにここに移されました。 マクセンティウス競技場は戦車競技場で、他の戦車競技場同様、中央にあるスピナと呼ばれる分離帯にオベリスクが建てられました。ちなみにここは陸上競技場なのでオベリスクを建てられる中央のスピナはありませんでした。

 四大河の噴水の横に建つのは、4世紀にこの場で殉教したアグネスを祀るサンタンニェーゼ・イン・アゴーネ聖堂です。アグネスが殉教したのは、キリスト教を弾圧したということでキリスト教徒に嫌われているディオクレティアヌス帝のときのことです。

オベリスクと聖アグネスを祀る聖堂。

 北にあるのがネプチューンの噴水。他の二つと比べると印象が薄い気がします。

北のネプチューンの噴水。

 北の建物の外側に発掘された観客席が見えるようになっているのですが、2018年に訪れた時は知らずに見落としました。

行き方

 ローマの中心地なので容易に訪れることができます。地下鉄が通っていないエリアなので、徒歩かバスで訪れることになります。周辺は建物が入り組んでいます。どの方向から来ても、路地を歩いて外周の建物をくぐると噴水のある美しい広場が目の前に広がり、ちょっとした驚きに見舞われるでしょう。近くにパンテオンがあるのでこれとセットで訪れるのがおすすめ。

路地を歩いて外周の建物をくぐると噴水のある美しい広場が目の前に広がります。

更新履歴

  • 2019/9/15 新規投稿
  • 2021/4/10 冒頭の地図をイタリア広域地図とローマ市内図の2つにした。

Posted by roma-fan